昨日の朝は、同じ時間に外に出たつもりだったが空は真っ暗だった。半ば足元も危うい視野の中、いつも通りの道を歩く。横殴りの風が体を通り過ぎていく。いやに冷たい風だなと思っていたら、気がつけば雪混じりのそれであることがわかった。歩き始めてからものの5分ほどで雪は止んだが、低く垂れ込めた雲は相変わらず太陽を包み隠している。慣れた道ではあるが、足元が見えないのはあまり嬉しくない。そのうち明るくなるだろうと気持ちはそのままにいつも通り歩く。いつもよりも人は少ないのか、それとも少ないのかもなかなか判断がつかない環境の中それでも歩くことには変わらない。私の目的は何かを求めるでもなく、ただ歩きさえすればいいのだ。目の前に自分の体より前に足を踏み出す。それだけの行為。ただ、そのフォルムや視線の向き先には私なりのこだわりがあり、できるだけ自分が満足できるステップを踏むようにしている。真っ暗な中歩いていると、普段見えない物の方が見えてくる。そして、光が満ちてくるごとに段々とその景色は光の中に吸い込まれていくのだ。存在は同じだが、意思表示をすることがほぼなくなったかのように。視野がひらけてきたのは、いつものコースノルマを終えようとする頃だった。私を照らし出してくれた光の元は、朝日ではなく、明るい満月。ただ、私はもう何十年も満月を見たことがない。正確に言うと満月という正円に近しい形の月の形を認識することができない。常に楕円形にしか見えないのだ。楕円であるだけならまだ目の調子は良い方で、疲れている時は、月の数がやたらたくさん見える。増殖するお月さま。まるで月が細胞分裂するかのように。その月に照らされながら、私は帰途に着いた。いつ見えなくなってもおかしくないこの視界の中に私が見ている世界を押し込むようにして。
普通に生きるということ〜魔女日記より〜
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